省エネ基準が何なのか分からないので、わかりやすく解説してほしい!
施主(消費者)や設計者にはどんな影響があるの?
省エネ基準とかZEHとか、違いが分からない
そんな悩みを解決します。
2025年4月1日から施行される建築物省エネ法の改正”省エネ基準適合義務化”は、設計者と施主(消費者)の両方に影響があります。
この記事では、省エネ基準適合義務化の概要や、その影響を分かりやすく解説します。建築の専門知識がない一般消費者や、新米設計士にもわかりやすい解説となっています。
この記事の筆者は一級建築士の資格を持っています。
建築業界で働いている知見を踏まえて、省エネ基準や周辺知識について解説します。
いろんな基準があってややこしい、建築物の省エネについて理解したい人は、ぜひ最後まで読んでください。
確認申請の4号特例廃止(正確には縮小)、壁量計算の改正については、こちらの記事を参考にしてください。
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省エネ基準適合義務化の概要をわかりやすく解説
建築物省エネ法が改正され、2025年4月からは、建築物を新築・増築・改築する際は、小規模な住宅でも省エネ基準に適合させることが必要となります。
省エネ基準:「建築物の断熱性や建築設備の省エネ性能は、最低限これくらい欲しいよね」という基準
今までは、300㎡以上の非住宅を新築・増築・改築するときだけ、省エネ基準に適合させればよいこととなっていました。 つまり住宅や、小規模な非住宅は省エネ基準に適合していなくても良かったのです。
しかし今回の改正で、住宅や小規模な非住宅も含む、すべての建築物が省エネ基準に適合しないといけなくなりました。
省エネ基準とは何かわかりやすく解説
省エネ基準とは「建築物の断熱性や建築設備の省エネ性能は、最低限これくらい欲しいよね」という基準です。
住宅の場合、省エネ基準には「家の断熱性などの基準」と「冷暖房・照明・給湯・換気設備などの省エネ性能の基準」があります。
暑い地域と寒い地域では、適用される基準が違います。
もう少し詳しく説明すると・・・
省エネ基準とは「建築物の外皮性能(断熱性能・窓の日射取得)や一次エネルギー消費性能(設備の省エネ性能)は、最低限これくらい欲しいよね」という基準です。
暑い地域と寒い地域では、適用される基準が違います。
例えば、東京都23区などの暑くも寒くもない地域は、6地域に該当します。
(1地域~8地域まであります。一番寒いのが1地域、一番暑いのが8地域です。)
6地域に住宅を建てる場合、省エネ基準は以下のようになります。
- 外皮性能の基準(断熱性などの基準)
UA値≦0.87 (UA値が小さいほど、壁や窓等の断熱性が良く、屋内が外の気温に左右されにくい)
ηAC値≦2.8 (ηAC値が小さいほど、夏の太陽の熱が窓等から屋内に入りにくい) - 一次エネルギー消費性能の基準(設備などの省エネ性能の基準)
BEI≦1 (BEIが小さいほど、冷暖房・照明・給湯・換気設備などの省エネ性能が良い)
UA値やηAC値、BEIは通常、ソフトを使って計算して求めます。
しかし計算で求めるとそれなりに手間がかかるので、仕様基準も用意されています。
仕様基準についてざっくり説明すると「マニュアル通りの材料や設備を使ったら、計算しなくても省エネ基準をクリアできる」というような基準です。
仕様基準について、後の章でもう少し詳しく解説しています。
仕様基準について、国土交通省からわかりやすいパンフレットが出ています。
詳細:建築物省エネ法 木造戸建て住宅の仕様基準ガイドブック(4~7地域版)
確認申請で省エネ基準への適合が審査される
建築物を建てる際には、設計図が建築基準法などに適合しているかどうか、第三者の審査機関から確認を受けないといけません。(確認申請といいます。)
この確認申請の中で、省エネ基準に適合しているかどうかもチェックされます。
(ただし面積200㎡以内の平屋建ての建築物は、確認申請の中で省エネ性能は審査されません)
もう少し詳しく説明すると・・・
実は2024年の時点で、省エネ基準の適合義務化は半分始まっていたとも言えます。
なぜなら、2024年から、省エネ基準に適合しない住宅を建てようとすると住宅ローン控除(減税)を受けられないようになったからです。
住宅ローン控除(減税)による減税額は年間数十万円になることもあるので、住宅を建てる人はほとんどが住宅ローン控除(減税)を利用します。 そのため、「住宅が省エネ基準に適合しないと住宅ローン控除(減税)を受けられない」というのは実質的な省エネ基準適合義務化とも言えるのです。
住宅ローン減税:住宅ローンを返済している人の所得税と住民税が安くなる仕組み
住宅ローン控除を受けるためには、設計した建築士が「住宅省エネルギー性能証明書」を作成すればよく、第三者によるチェックは不要でした。
2025年4月からは、以下のような違いが生じます。
- 建築士だけでなく第三者の審査機関も、確認申請で省エネ基準適合をチェックする
- 省エネ基準に適合しない住宅は(住宅ローン控除を受けられないどころか)そもそも建てられない
確認申請の4号特例廃止(正確には縮小)、壁量計算の改正については、こちらの記事を参考にしてください。
省エネ基準適合義務化の、マイホーム”新築”への影響
省エネ基準の適合義務化で、住宅を新築する施主(消費者)や設計者に対して、どのような影響があるのでしょうか。
影響が出るのは、規模にかかわらずすべての住宅です。
ただし、特別なことをしなくても一般的な建て方をすれば、多くの場合、省エネ基準はクリアできます。 省エネ基準をクリアできる具体的な仕様は後で解説します。
省エネ基準の義務化は「消費者の快適性(断熱性能や省エネ性能)のことを考えない一部のメーカーや工務店を規制する」という効果の方が大きいと思われます。
施主(消費者)への影響
- 省エネ性能が極端に悪い家を買ってしまうリスクが減る
- 省エネ性能を第三者の審査機関が審査するため、安心感が増す
- 確認申請で省エネ基準適合まで審査されるため設計者の手続きの手間が増え、設計料が増加してマイホームの費用が高くなる
- 住宅の性能を犠牲にしてでもデザインにこだわりたい人には、自由度が減る可能性がある
- 確認申請の審査期間が長くなったり、計画変更の確認申請の手続きが生じたりすることで、着工時期や工期の遅れが生じてしまう
消費者にとって、低品質な住宅を建ててしまうリスクが減るのはポジティブな影響です。しかし費用の増加や、着工時期・工期の遅れなど、ネガティブな影響も考えられます。
設計者への影響
- 確認申請の時に「省エネ関連の図書」の作成の手間が増える
- 確認申請での審査対象が増えたことで、現場で変更がある際に”計画変更”確認申請の負担が生じる
- 審査期間が長くなるので、スケジュール管理が難しくなる
設計者にとっては負担が増えるので、ネガティブな改正でしょう。
省エネ基準適合義務化の、住宅”リフォーム”や”増築”への影響
- 2025年4月以降に住宅を増築・改築するときは、増築・改築する部分だけ省エネ基準に適合する必要があります。既存部分は適合義務はありません。
- リフォームするときは、省エネ基準への適合義務はありません。
リフォームするときは、省エネ基準への適合”義務”はないけど、なるべく省エネにすることが”努力義務”(強制力はないけどなるべく努力しましょう)になっています。
・省エネ基準適合義務制度は、増改築を行う場合にも対象となります。「増改築」には、修繕・模様替え(いわゆるリフォーム)は含まれません。
・増改築の場合は、増改築を行う部分が省エネ基準に適合する必要があります。引用:建築基準法・建築物省エネ法改正法制度説明資料 61ページ
省エネ基準適合義務化はいつから?
省エネ基準への適合義務化は、2025年4月1日から施行されます。
2025年4月1日以降に着工する建築物は、省エネ基準に適合する義務があります。
省エネ基準に適合しても快適とは限らない理由
省エネ基準に適合する住宅は、夏涼しく冬暖かい快適な住宅なのでしょうか?
実は、そうとも言い切れません。快適な住宅を実現するには、「省エネ基準では不十分。最低限ZEH水準は欲しい。」という考えが一般的です。
ZEH水準については後で解説します。
まずは外皮性能(断熱性など)について。
省エネ基準を満たしていても、真冬には、室内でもダウンジャケットが必要なくらい、低気温になる可能性があります。HEAT20によると、省エネ基準で求められている断熱性は、「最低室温が概ね8℃を下回らない」程度とされています。
HEAT20:一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会
8℃以下になると、ダウンジャケットが必要となるくらいの寒さです。「真冬に暖房を切って寝て、朝起きたときの室温が8℃」と考えると分かりやすいです。
「暖房なしだと室内でもダウンジャケットが必要」と聞いたら「省エネ基準では快適とは言えない」と考える人は多いでしょう。
詳細:HEAT20ホームページ「住宅シナリオと外皮性能水準」
次は設備(冷暖房、換気、給湯、照明など)について。
ざっくり言えば、「最低室温が概ね8℃を下回らない程度の断熱性」を確保したうえで、1999年時点での標準的な設備を導入すれば、省エネ基準をクリアできます。
20年以上前の標準的な設備でもクリアできるので、求められている水準が高くないことが分かります。
一次エネルギー消費量基準の考え方
評価対象となる建物において、地域区分や床面積等の共通条件のもと、実際の建物の設計仕様で算定した設計一次エネルギー消費量が、基準仕様(平成11年基準相当の外皮と標準的な設備)で算定した基準一次エネルギー消費量以下となることを基本とします。
平成25年時点のパンフレット(H25省エネ基準)を引用しています。2025年現在の省エネ基準はH28省エネ基準ですが、求められている性能はH25省エネ基準とほぼ一緒です。
最後に気密性について。
気密性とは、ざっくり言えばすき間風の入りにくさのことで、C値という指標で表されます。C値が少ないほど家の隙間が少なく、C値≦1.0が望ましいと言われています。
断熱性が良い住宅でも、気密性が悪いと、すき間風で屋外の暑さ・寒さが室内に入ってきてしまいます。
しかし省エネ基準では、気密性は要件となっていません。
以上のことから、省エネ基準に適合しても快適とは限らないと言えます。
省エネ基準に適合する木造戸建て住宅の具体的な仕様
省エネ基準に適合する木造戸建て住宅の仕様をざっくり説明します。
断熱材は種類がいろいろありますが、綿のようなものや、発泡スチロールのようなものを想像すると良いです。
特別なことをしなくても、現在一般的に使われている設備を入れたらクリアできることが分かります。
ここであげた例は仕様基準(計算を行わずに、マニュアル通りの材料を使うやり方)に基づいているので少し余裕を持った仕様となっています。
そのため、UA値やηAC値、BEIの計算を行えば、もう少し性能の悪い設備などでも省エネ基準をクリアできる可能性があります。
仕様基準の詳細は、こちらのパンフレットを見てください。
詳細:建築物省エネ法 木造戸建て住宅の仕様基準ガイドブック(4~7地域版)
2030年から義務化?ZEH(ゼッチ)水準は省エネ基準よりも性能が高い
国は2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指しています。
詳細:国土交通省ホームページ「ZEH・LCCM住宅の推進に向けた取組」
ZEH(ゼッチ)水準とは・・・
6地域(東京都23区など暑くも寒くもない地域)に建てる場合
- 外皮性能の基準(断熱性などの基準)
UA値≦0.60 (UA値が小さいほど、壁や窓等の断熱性が良く、屋内が外の気温に左右されにくい)
ηAC値≦2.8 (ηAC値が小さいほど、夏の太陽の熱が窓から屋内に入りにくい) - 一次エネルギー消費性能の基準(設備などの省エネ性能の基準)
BEI≦0.8 (BEIが小さいほど、冷暖房・照明・給湯・換気設備などの省エネ性能が良い)
断熱性能としては、真冬で暖房無しでも最低室温が概ね9~10℃を下回らない程度です。
省エネ基準よりは断熱性能が多少良くなっていますが、超快適とまでは言えません。
設備などの省エネ性能としては、1999年頃の標準的な設備よりは、エネルギー消費が20%少なくなっている程度です。
ZEH水準をクリアできる具体的な仕様は以下の通りです。
ZEH水準(=誘導基準)の仕様の詳細は、こちらのパンフレットを見てください。
詳細:建築物省エネ法 木造戸建て住宅の仕様基準ガイドブック(誘導基準編)(4~7地域版)
ZEH水準をクリアしたうえで、十分な容量の発電設備(ソーラーパネルなど)を設置したものが、ゼロエネルギー住宅(ZEH・ゼッチ)と呼ばれます。
ゼロエネルギー住宅(ZEH・ゼッチ)を建てると、補助金や税制優遇などのメリットがあります。
住宅性能表示制度の等級と省エネ基準
住宅性能表示制度とは、住宅の性能をレベル分けして「等級」で表したものです。
耐震等級や耐火等級など、いろいろな項目がありますが、省エネ関係の等級もあります。
等級の数字が大きいほど、性能が良いです。
- 断熱等性能等級(等級7が最高等級)
- 一次エネルギー消費量等級(等級6が最高等級)
例えば家を建てるときに、「断熱がしっかりした家を建ててください」と伝えたいと仮定します。
そのまま伝えても抽象的過ぎて、あなたの望む断熱性が設計者に伝わっているかどうか分かりませんよね。そんなときに「断熱等性能等級7の家を建ててください」と言えば、明確に伝えることができます。
断熱等性能等級
住宅の断熱等性能を表す等級です。
UA値とηAC値によって、等級が決められます。
- UA値:値が小さいほど、壁や窓等の断熱性が良く、屋内が外の気温に左右されにくい
- ηAC値:値が小さいほど、夏の太陽の熱が窓等から屋内に入りにくい
6地域(東京都23区など暑くも寒くもない地域)に建てる場合
- 等級7:UA値≦0.26 かつ ηAC値≦2.8
- 等級6:UA値≦0.46 かつ ηAC値≦2.8
- 等級5:ZEH水準と同じ(UA値≦0.60 かつ ηAC値≦2.8)
- 等級4:省エネ基準と同じ(UA値≦0.87 かつ ηAC値≦2.8)
一次エネルギー消費量等級
住宅の設備(冷暖房・換気・給湯・照明)などの省エネ性能を表す等級です。
BEIによって、等級が決められます。
BEI:値が小さいほど、冷暖房・照明・給湯・換気設備などの省エネ性能が良い
6地域(東京都23区など暑くも寒くもない地域)に建てる場合
- 等級6:BEI≦0.8
- 等級5:BEI≦0.9
- 等級4:省エネ基準と同じ(BEI≦1.0)
まとめ
省エネ基準適合義務化の概要は以下の通りです。
- 建築物省エネ法が改正され、2025年4月からは、建築物を新築・増築・改築する際は、小規模な住宅でも省エネ基準に適合させることが必要となる。
- 省エネ基準とは「建築物の断熱性や建築設備の省エネ性能は、最低限これくらい欲しいよね」という基準。
- 今までは、住宅や小規模な非住宅は省エネ基準に適合していなくても良かった。
- 今回の改正で、2025年4月からは住宅や小規模な非住宅も含む、すべての建築物が省エネ基準に適合しないといけなった。
確認申請の4号特例廃止(正確には縮小)、壁量計算の改正については、こちらの記事を参考にしてください。
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